- 2021/2/12
- 緩和ケア便り 2月号
慶應義塾大学医学部医学研究科博士課程
がんプロフェッショナルコース1年生
慶應義塾大学医学部 外科学(一般・消化器)
森本 洋輔
私は、2021年1月の1ヶ月間、がんプロフェッショナル養成コースのがん診療科ローテーションの一環で、緩和ケアセンターで研修させて頂きました。私は消化器癌、特に上部消化管を専門とする消化器外科医です。外科を含め客観的な立場で日常診療を見ることはなかなかないため、1ヶ月間の緩和ケアセンターでの研修は大変貴重な経験となり、幅広い視野を培うことができたと感じています。
座学としては緩和ケア講習会を初期臨床研修医2年目に受講しておりましたが、体系的に緩和ケアを勉強する機会は実臨床の中ではあまりありませんでした。緩和ラウンドの初日にまず驚かされたのは、患者さん一人一人にかける時間の長さ、そして薬剤に関する薬剤師さんの豊富な知識量でした。初診患者さんに関してはラウンド前にカルテの隅々から情報を抽出し、医師(身体症状面、精神面)、看護師、薬剤師、時には栄養士のチームで患者さんの元に足を運びます。チームで患者さんの訴えを親身に聞き、かつ必要な問診、診察を同時に行い、方針を検討します。例えば、消化器癌による腹痛緩和目的でコンサルテーションがあったとしても、患者さんの訴えは腹痛だけではなく、嘔気、不眠、食指不振なども同時に訴えることが多く、様々な症状に対してベッドサイドで十分時間をかけて診療を行います。方針を検討する際には、薬物相互作用や内服用量などを薬剤師さんが迅速に計算して下さり、それをもとに主治医への推奨を行っていきます。
今回のローテーションを通して学んだ鎮痛薬の使い方や支持療法はもちろんですが、今後忘れずに心にとめておきたいと思ったことが大きく2つありました。
1つ目は、患者さんの訴える症状の原因について十分な考察を行うことです。例えば、疼痛を訴える患者さんがいた時、がんがある=痛い、と考えがちですが、実は癌以外が原因で疼痛を訴えていることも少なくありません。痛みの裏に隠れている原因を見逃し、痛みを抑えるためにオピオイドを増量し、患者さんが副作用に苦しむことはあってはならないことです。鎮痛薬で痛みをコントロールするだけではなく、原因についても十分な検査、検討を行う必要があることを再認識しました。
2つ目は、コミュニケーションの大切さです。緩和ケアチームはあくまでもコンサルテーション業のため、推奨を行うに留まり、最終判断は主治医が行います。診療を行っている上で、主治医とのコミュニケーションがうまく取れず、もどかしさを感じる場面も少なくありませんでした。
医療の現場においては、医師-患者間はもちろんですが、医療従事者間のコミュニケーションも同じくらい大切です。お互いがお互いを尊重し、尊敬し合い、大きなチームとして患者さんの診療に当たることができれば、患者さんも心強いと思います。将来自分が担当する患者さんを緩和ケアに依頼した際は、しっかりとコミュニケーションを取り、病棟ラウンドを見かけた際は積極的に声をかけ、ディスカッションし、主体的に緩和ケアに関わっていきたいと思います。
最後になりましたが、非常に親身に指導してくださった緩和ケアチームの方々に心からお礼を申し上げたいと思います。1ヶ月間ありがとうございました。