- 2015/01/13
- 緩和ケア便り 1月号
産婦人科 がんプロフェッショナル養成コース
野上 侑哉
産婦人科、そのなかでも子宮癌などの婦人科悪性腫瘍を専門しております。この2か月間、緩和ケアチームに参加させてもらい、研修する機会をいただきました。
緩和ケアというと、がんにおける終末期の症状緩和のみというイメージがありますが、それは終末期に限らず、医療の本質に基づいていると感じました。
私たち腫瘍医は、「この病期、組織型、年齢の時に、選択すべき治療は!?」と常に病気に対する‘正解’を追い求めがちです。医療に最も期待されることはそれであり、目の前にいる患者様を治すのは勿論、今克服できない病気も未来には救えることを目指すのは当然のことです。しかし、がんであるかどうかに依らず、いつか人は亡くなるもので、その方の最期の時間には、それぞれの希望があり、それぞれが‘正解’なんだと思います。がんによる症状は、その選択肢を狭め、希望を阻みます。苦痛を和らげ、患者様の希望に沿えるようお手伝いするということは、終末期に限らず、患者様と共に選択していくという大切な医療の本質だと感じました。
また苦痛を和らげることの大切さも学びました。痛みがひどく、「死んでしまいたい」とおっしゃっていた方が、鎮痛薬で、次の診察の時には、「残された人生は、主人と絵画を見て回ったり、家庭菜園を楽しみたい」と話していらっしゃる姿は印象的でした。人はいつか亡くなるものならば、誰もが皆、‘残された人生’を生きていることになります。残された人生、苦痛がないほうが楽しめるというのは終末期に限ったことではないでしょう。病気だけでなく、症状にも向き合うということも、大事なことだと思い出しました。
心は、時に症状をも左右するということも。独居で頑張られてきた高齢の方ががんになってしまうと、退院すれば家にお独りの状態になります。家には帰りたい、退院すると痛みが強くなり救急で病院にかかる、入院すると痛みが消える、というのを繰り返す患者様を拝見すると、不安は痛みを強くするのだと感じます。誰もが、がんに向き合うのは初めてのことで、これまでの生活が壊れてしまう不安があります。それをプロとして、アドバイスし、不安を取り除くということも、医療の普遍的な役割に思えました。
ここで教えていただいた知識や経験はもちろんのこと、これらのことも忘れずに今後も、診療、研究に励んでいきたいと思います。最後に、診療にお忙しい中、温かく迎えていただき、丁寧に教えていただいたチームの皆様に御礼申し上げます。本当に有難うございました。