- 2025/9/5
- 緩和ケア便り 9月号
慶應義塾大学医学部 外科学教室(一般・消化器)
池田 惇平
2025年7月の1か月間、がんプロフェッショナル養成コースの一環として、緩和ケアチームにて研修をさせていただきました。私はこれまで外科医として、主に食道がん・胃がん・といった消化器がんの治療に携わってまいりました。診療の中では、進行期・終末期の患者さんと関わる機会も少なくありませんでしたが、今回のように緩和ケアに体系的かつ継続的に関与するのは初めての経験であり、多くの学びと気づきを得ることができました。
これまで私もオピオイドの処方を行った経験はありましたが、患者さんの全身状態や苦痛の質、生活背景などをもとに、チームで綿密に評価し、プランニングしたうえで処方を行うというプロセスは初めてであり、非常に印象的でした。症状緩和に向けたチームでのディスカッションを重ねながら、患者さんに最適な薬剤選択や投与ルート・タイミングを調整していく様子に、緩和ケアの奥深さを実感しました。
研修期間中、他院で当直をしていた際に、夜間に呼吸困難を訴える終末期のがん患者さんから連絡が入りました。研修での学びをもとに、適切な量のオピオイドを用いて呼吸苦の緩和を図ったところ、症状の軽減につながり、患者さんが落ち着いて過ごせたことに大きな喜びを感じました。これまでであれば自信を持って対応できたか分かりませんが、緩和ケアチームでの経験が、現場での判断に確かな支えを与えてくれたと感じています。
また今回の研修の中で、かつて病棟で担当をしていた患者さんの緩和ケアを受け持つ機会がたびたびありました。手術前から手術をのりこえ退院するまでをよく知る方の緩和ケアの依頼を受けるのは非常に苦しく感じました。外科医の立場では聞けなかったような話も聞くことができ、「手術の時はとても辛かった、でもなんとか乗り越えたのに再発した、もう辛い思いをしたくない」といった叫びにはとても胸が痛くなりました。その方に対しても悩みながらも適正なオピオイドを検討し介入することで、楽になったと言ってもらえたことにやりがいを感じました。
このたびは、貴重な研修の機会と、日々の丁寧なご指導をいただきました緩和ケアチームの皆様に、心より御礼申し上げます。今回学んだことを日常診療に活かせるように精進してまいります。