- 2023/7/25
- 緩和ケア便り 7月号
第4回慶應サポーティブケアセミナーに参加して
慶應義塾大学病院 薬剤部
金沢和幸
第4回慶應サポーティブケアセミナーが、2023年6月16日 18時よりオンラインで開催されました。
今回は、国家公務員共済組合連合会 斗南病院の上村恵一先生より「緩和ケアの精神心理的ケアに使いたい漢方薬の選択 〜補剤と柴胡剤の使い分けについて〜」と題したご講演をいただきました。
今回の講演では、エビデンスだけでなく上村先生のご経験に基づく多くの症例提示があり、それぞれの患者さんで学びがありました。
私が印象に残った症例は、抗がん剤治療を前に不定愁訴の訴えが多く、摂食不良から低栄養状態も重なり治療が進まない患者さんに対して、補剤が著効した例です。
私は、緩和領域で代表的な補剤である補中益気湯や人参養栄湯、十全大補湯の適切な使い分けを苦手に感じていましたが、補剤の使い分けのポイントは、“体力”と“病気に対する抵抗力”の物差しとして気血水の虚実である「証」を考えるということを、非常に簡潔かつわかりやすくご説明いただきました。
症例では気虚が強い患者さんに補中益気湯が選択されましたが、証のわかりやすい考え方と十全大補湯や人参養栄湯の選択を控える場合についてのご説明は、今後、このような患者さんに薬剤師として薬剤を提案する上で、役立てられると考えます。
また、COVID-19感染後遺症に対する柴胡剤の有用性についても、初めてお聞きする内容が多く勉強になりました。COVID-19感染後遺症は痛みや倦怠感、不安、消化器症状など様々な症状があり、このような心身的な症状に対して柴胡剤が持つ抗炎症作用やホルモン・自律神経調節などが精神症状と身体症状の両面から有効であることを複数の症例で報告していただきました。
COVID-19のような最新の疾患でも、証を評価することで漢方薬が有効な症例があることを改めて実感し、患者さんのつらさを緩和させるために最新の薬物治療のエビデンスを収集することの重要性を感じました。
最後に、今回の講演の中で薬剤師として大きく感銘を受けたことは、「漢方薬は西洋医学の“攻め”と比較して“補う”ことができる」という考え方です。
高血圧に降圧薬、不眠に睡眠薬、抑うつに抗不安など対症療法の薬剤が追加されることで患者さんが多剤併用に陥っている場面はよく見られます。このような患者さんで精神症状を伴う場合には、全身的に証を評価した漢方薬が症状を緩和し、減薬に繋がる場合があります。
すべての患者さんに対してではありませんが、近年、課題として挙げられているポリファーマシーの観点からも、精神症状を伴う身体症状を持つ患者さんに対して、西洋薬だけで治療はできているのかという視点を持つことが重要だと考えるようになりました。
今回の講演を通して、患者さんに適切な補剤の考え方について理解が深まり、また患者さんのつらさを緩和するためにはより深い漢方薬の学習が必要であることを実感しました。
がん患者さんに限らずつらさの緩和が不十分な場面では、患者さんの評価、最新エビデンスの確認を行い、漢方薬も1つの治療薬選択肢として検討することの大切さを改めて考える良い機会を与えていただけました。